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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

それは、しかし、不気味さや、恐しさではなく、いいようもない佗しさ、悲しさ、寂しさであり、やり場に困る腹立たしさであった。そして、その憤りは、親方に対してよりも、一層はげしく、サクの方へ向いていた。

(この毒の花のような女が、このよい親方を殺してしまったのだ)

マンは、一見しおらしげなサクへ、はげしい憎悪をおぼえた。

「親方、……永田の親方」

膝をついて、肩をゆすぶった。

永田は鼾を止め、軽い呻きを発するだけで、眼をさます様子がない。

「こんなに疲れていらっしゃるんですから、もう、このままに……」

そのサクの言葉には答えず、マンは、枕元にある水さしを取った。永田をあおむけにしておいてから、水を口にふくみ、ブウッと、親方の顔にふきかけた。二度、冷たい水を浴せると、永田は、ようやく、眼を開いた。

「親方」

「おサクかい?」

舌のもつれたような声である。

「わたしですよ。玉井のマンです。わかりますか?」

「わかるが、……なんで、おマンが来たんじゃ?」

「親方を迎えに来ました。すぐ、あたしと帰って下さい。永田組が潰れかかっています。夜業の現場に、大庭の大親方がお出ましになって――もし、今夜の荷役に、永田が姿を見せなんだら、考えがある。