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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
……そう、おっしゃっています。親方、親方は永田組が潰れても、ええとですか? 永田組と、おサクさんと、どっちが大事なのですか? 子分全部と、メカケ一人と、天秤にかけて、どっちを採るとですか? どっちが、可愛いとですか?」
マンのその言葉は、麻痺した神経にも、鋭く中枢にひびいたものか、永田杢次は、
「そら、大事じゃ。そら、大事じゃ」
と、囈言のように、呟いて、蒲団のうえに、起きなおった。
「お帰りになりますの?」
サクは、ふらついている旦那が、まだこころもとないとみえる。
「当り前ですよ」
親方にかわって、マンが、そう、叩きつけるように、答えた。
マンは、乱れ箱に入れてある衣類を取り、親方に着せた。骨なしのような永田杢次を立たせ、頑是ない子供にしてやるように、襦袢、着物、羽織、そして、帯まで締めてやった。サクがしようとするのを、手をはねのけて、扱わせなかった。
玄関に、引きずるようにして、つれて出た。
「旦那、俥を呼びましょうか?」
そのサクの猫なで声に、マンは、はがゆそうに、
「俥なんて、要るもんですか。そんな悠長な時間はないわ」
玄関に置いた弓張提灯は、火が消えていた。