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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
、病臥中でありまして……」
どっと、会場内に、爆発するような笑い声がおこった。
得意で挨拶していた若い役人はなんで笑われたのかわからず、すこし、むっとした顔つきになって、
「同君は、技能抜群、誠実無類の人物でありまして、日ごろ、諸君を指導しながら、仕事熱心のあまり、今日、殉職に近い難にあわれましたことは……」
また、ひとしきり、会場内は、奇妙な笑いでどよめいた。役人に遠慮はしていたが、誰もおかしさがおさえきれなかったのである。
笑うことのできなかったのは、マンだけである。中央にしつらわれた、十六人の女工席の先頭に腰かけていたが、顔がまっ赤に燃えてきて、頭があげられなかった。
「マンさん、ウフフ……」
すぐ後にいたキヌが、マンの腰のあたりを指でつついて、意味ありげなふくみ笑いをした。キヌも、女工に採用されていた。
マンは、氷の鎌で腰を切られたような寒気がした。くらくらと、眼まいをおぼえた。
「誰もほんとのことを知らんらしいが、あたしだけは、なにもかも知っとるよ」
キヌの陰にこもった笑いは、明瞭に、そういっていた。
それから、毎日、マンは、高門の煙草工場に出勤した。