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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
心内ははげしく動揺していたけれども、表面は、この新しい仕事に嬉々として、没頭しているように見えた。
「やっぱり、マン坊はちがうのう」
武十旦那も、彼女の働きぶりに、大満悦である。毎日、面とむかって、ほめる。
「いンね、旦那さん、つまりません」
「一等葉を、日に三杯もつくるなんて、機械よりも、よう、やりんさる。五等葉でも、三杯、なんぼうにも出来ん者もあるとに……」
煙草葉は、よい部分、わるい部分と、一等から五等までに分けられる。それをきざむのだが、一日に、一等葉を一杯(一貫六百目)つくるのも、なかなか骨だった。それを、マンは、正確に、三杯つくった。ぞんざいにきざむ五等葉なら、六杯ぐらい作る者もあった。一杯の賃銀、三銭から四銭。
「マン坊、村長さんとこの敬やんの嫁女になるげなのう」
或る日、工場で、武十旦那からそういわれて、びっくりした。きいてみると、マンが、煙草工場に採用されたことも、女工頭になったことも、すべて、二男坊の顔と口ききとによるものだということであった。マンは、唖然とし、嘔吐をもよおした。
敬造は、谷口家を、毎夜のように、訪れて来るようになった。