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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(憎い恋敵奴)
景気づけに、強いて、時次郎は、心の中で、呟く。嫉妬の感情に変りはない。けれども、軽侮と憎悪の念は、いつか、影をひそめているのである。といって、マンを、あきらめる気持はなく、
(なにがなんでも、マン坊は、おれのものにするんじゃ)
と、時次郎は、力みかえるのだった。
時次郎は、マンの方を、そっと、見た。同じ艀の中で、雁爪を持って、せっせと、入れ鍬をしている。その甲斐々々しい働きぶりは、たしかに、時次郎のことなどは念頭になく、玉井金五郎のこの大切な仕事へ、全心全力を傾けて、協力している姿にちがいなかった。
マンは、ときどき、汗をふき、仕事の手を休めて、デッキの上の金五郎を見る。時次郎の方は、一度も見向きもしない。
印半纏をぬいだ金五郎は、丼のある紺の腹掛けの両側に、腕をむきだしにしている。その左腕に躍っている昇り龍が、朝の光線に、青々と浮きあがり、眼を光らして、荷役の采配を振っているかのようだった。
「そら来い。そら来い」
金五郎の声は、弾んでいる。
(あの男、パナマ丸の荷役の後で、おれとマンとを成敗するというたが、ほんとに、おれを斬りはせんじゃろか?)