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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

パナマ丸荷役が、つつがなく終ったことをよろこんだ大庭春吉は、永田杢次をはじめ、金五郎、松川源十、マン、その他、七八人の主だった部下を、自邸に、招待した。

「玉井が居らなんだら、どうなっとったか、わからん。玉井は、永田組だけじゃない、聯合組の大黒じゃ」

大庭は、そういって、しきりに、金五郎を賞揚した。

しかし、金五郎は、何故か、仏頂面をしていて、終始、憂鬱そうだった。

この宴席から、永田杢次は、いつの間にか、姿を消してしまった。

金五郎も、自宅に、「六ゾロの源」をはじめ、十人あまりの仲間を招いた。すき焼で、ささやかな犒いの宴を張った。

「みんなが、よくやってくれたので、どうにか、無事にすんだ、ほんとに、ありがとう」

金五郎は、そういい、座にいる大川時次郎の方を向いて、

「御苦労さん、あんたにも、一杯」

と、盃をさした。

「金さん」

と、もう、菊石面を真赤に染めている源十が、すこし、声を落した。

「なんじゃね?」

「角助が、右手の小指に繃帯しとるのを、見た者があるちゅうぞ。新しい繃帯で、石炭酸のにおいが、しよったちゅうけ、きっと、今度のしくじりで、小指を切って、ドテラ婆さんか、友田かに詫びを入れたんじゃよ」