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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
顔に、庖丁で、二つ三つ、傷でも、こさえとかにゃあ」
小方たちは、そんなことをいいあっては、にぎやかに、げらげらと、笑った。
金五郎は、黙って、聞いていた。
江崎満吉が、今夜半、なぐりこみを掛けて来ることは、まだ誰も知らない。マンと、金五郎の夫婦だけだ。
金五郎は、彦島で聞いた話を思いだした。江崎満吉が、なぐりこみのときには、かならず、新しい四斗樽の鏡を抜くということは、ほんとうらしい。松川源十のいうように、花見酒ではないのである。
大成丸の荷役を終えて帰ると、金五郎は、夜を待った。
五時になると、安養寺の梵鐘が、鳴りだした。音は、近い。
金五郎は、玄関正面にかかっている柱時計を降した。新品である。
「七分ほど、遅れちょる。この時計、あんまり狂うたことはないとじゃが、ゼンマイがゆるんどるんじゃろう」
台所で、晩飯の支度をしているマンを見て、そんなことをいいながら、坐りこんで、ギチギチと、ネジを巻いた。
時間をあわせてから、すぐには、掛けようとせず、両手で、愛撫でもするように、時計を、ためつ、すがめつした。八角形になった外枠の中に、アラビヤ数字で書かれた、丸い文字盤がある。