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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
振子は、金メッキされて居り、透かし彫りにした朝顔が、その肩のところに花を開いている。「精工舎製」の四字が、時計の中に見える。
振子が止まらないように注意して、金五郎は、ゆるやかに、時計を廻転させた。裏に、肉太の字で書かれてある自分の字を、読んだ。
新仲町玉井組
明治三十九年四月二日求之
本品ハ請負業開業記念トシテ
愛智時計店ヨリ買収セリ
一金四円七拾銭也
営業開始ハ二月十九日
金五郎は、微笑した。この時計は、マンと二人で、買いに出たのだが、そのとき、店先で、夫婦間に、口喧嘩が出来たのである。
「あなた、こんな高い時計、あたしたちには、贅沢すぎますよ。こっちの安い方で、ええわ」
「馬鹿をいうな。玉井組の記念じゃけ。思いきって張りこむんじゃ。どうせ、今、お前の腹の中に居る子が、男じゃったら、跡継ぎをさせにゃならん。そのときに、安物じゃったら痛んでしまう。これなら、末代物じゃよ。こういうことには、けちけちせんものじゃ」
「けちけちするわけじゃないけど、……四円七拾銭ものお金、どこから出るの?」
「働いて、ひねりだす。一層、励みが出るじゃないか」
「ごりょんさん」と、愛智時計屋が、笑いながら、「心配しなさんな。