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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

……なんて、いう。小使を五銭くれりゃ、兄には、十銭やった、というし、髪つみに十銭貰や、人には、十五銭やったという」

「そんなかな? もし」

「清ちゃん」

金五郎は、なにか思いついて、眼をかがやかせた。

「うん」

「一生の頼みがあるんじゃがな」

鍛冶屋の清七は、お人よしで、かんの鈍いことで有名である。金五郎から、いつも、「お前は、朝、頭をたたかれて、夕方ごろになって、アイタ、というような男じゃ」といって、からかわれる。それで、今、親友が、切迫した顔つきと語調とで、一生の頼みがある、といっても、のびやかな顔で、表情も変えず、

「なんぞな? もし」

と、間のびした声で、ききかえしただけであった。しきりに、鼻糞をほじくる。

「鍵を、一箇、作ってもらいたいんじゃがなあ」

「どがいな鍵ぞな?」

「それが、……ちょっと、わからんのじゃが……?」

「わからん鍵は、でけんなあ」

「清ちゃん、お前じゃけに、打ちあける。実は、兄夫婦が、いつも、銭を入れとる箪笥がある。その箪笥の鍵は、嫂が持っとる。その鍵と同じ鍵が欲しいとじゃ」

「箪笥の銭を泥棒するんかな、もし?」

「いや、盗むんじゃない。借るんじゃ」