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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
表には、「永田清涼飲料水製造所」という看板が出ているが、入口の鴨居には、昔の「永田組」の提灯がかかげられてある。一日の仕事を終えた工場では、四五人の従業員が、ラムネの瓶を箱詰にしたり、割れたガラスの欠片を、竹箒で、掃き集めたりしている。
「おごめんなさい」
「おう、玉井か。おあがり」
茶の間で、長火鉢を挟み、永田夫婦は糸巻きをしていた。杢次が両手首にかけた白糸の束を、ヨネがくるくると巻き取っている。糸がほぐれてゆくたびに、手首を柔軟に動かして、杢次はなかなか要領がよい。
それを、かたわらで、息子の茂次平が、面白そうに眺めている。
長火鉢の横に、坐ると、
「親方、刀をあげましょう」
そういって、紫の袱紗に入った二本の刀を、永田杢次の前に、置いた。
「そうか、そりゃ、おおきに」
永田は、糸を外し、日本刀を抜いた。何度も刀身を眺めて、よろこんだ。以前にくらべて、ずっと、健康そうである。
ヨネが、酒の燗をつけて来た。
「玉井、今度、お前の発案で、小頭の組合を作るそうじゃないか」
「そうしようと思っています」
「ええ事じゃなあ」
「でも、困ることがあるんですよ。聯合組や、三井物産、大高組、などは賛成してくれたんですが、友田喜造の共働組だけが、どうしても入らんのです」