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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「飛鳥」の芸者たちが四五人、つれだって、髪結いに来たのだった。お京は、写真画報を見ながら、順番を待っていた。投げ島田の頭を、銀杏返しに結いなおして貰うつもりである。
「染奴さんは、ハイカラねえ」
二〇三高地髷にしている染奴を見て、友達が、眼を丸くしている。二〇三高地は、日露戦争のとき、非常な激戦の後、日本軍が奪取したロシヤ軍陣地のあった山だ。その名を冠した髪が流行していた。庇髪の中央に、サザエのような瘤を作る。染奴が、特に、今日、この髷を選んだのには、魂胆があった。
「今日は、みなさんお揃いで、晩、なにかあると?」
髪結のおナツが、染奴の髪を結いながら、訊く。博多生まれ、四十年配の、勝気らしい、色の浅黒い、眉毛のつりあがった女である。
三人いる弟子たちも、それぞれ、鏡に向かって、一人ずつ、髪を結っている。店内には、強いびんつけ油のにおいがただよい、ときどき、元結をしめる、キュ、キュ、という音、髪を梳く櫛の、シュウ、シュウという音が聞える。
染奴が、いそいそした声で、
「宴会よ」
「宴会は珍しゅうも、なか。こげん、みなさんが気張って、髪を結いなさるとは、なんか、特別なことじゃろうもん」