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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

がいた。

「向こう方が、大層多いのう」

と、いう。

「嚇かそうとしとるんじゃよ」

「吉田親分は、見えんようじゃないか」

「後で来るとか、いいよった」

新之助は、金五郎の弟分ということで、今日は「飛鳥」の亭主ではなく、正客として、金五郎とならんでいた。

森新之助は、この街では、一目置いた眼で、眺められている。殺人の前歴があるからだ。人を殺して、監獄に行って帰れば、箔がつくことは、一種のやくざ憲法ごときものになっている。新之助が殺した「蝮一」は、関門北九州では、もっとも獰猛な親分であったので、新之助は奇妙な名声さえ持っているといってよかった。普段はおとなしいが、生来、短気で、かっとなると、なにをしでかすかわからない。そんな気質も、いつか、知られていて、

「あいつを怒らせると、うるさいぞ」

うるさいことでは人後に落ちない連中からも、そんな風な眼で見られていた。そのことが、いわば、敵方である吉田磯吉派の勢力圏内で、「飛鳥」を開業して、どうにか、これまで、無事にすんだ理由といえるかも知れない。しかし、今、例の「顔」が、その均衡と平和とを破ろうとしているのであった。

金五郎の側としては、新之助、松川源十、大川時次郎、大庭春吉、三崎国造、田中光徳の七人きりであるが、友田喜造の側は、残りの大半である。