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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
どんなことがあっても、あなたの右腕に、降り龍を彫りたい――憑きもののしたような、命がけの願い。女の一念。……金五郎さん、あたしのこの気持、わかって」
「わからんこともないが……」
「あなただって、片方だけの半端じゃあ、ほんとの男の紋章とは思わないでしょう。あたし、金五郎さんが、立派な男で、約束を守る人だということを、信用するわ。武蔵温泉での約束、果して下さること、疑わないわ」
「弱ったなあ……」
「金五郎さん、彫青、もう一度、見せて」
仕方なしに、左腕をまくると、
「ああ、美しいわ」
お京は、我慢が出来ないように、金五郎の腕を両手でにぎり、龍の首のところに頬ずりをした。唇をつけて、青い絵具を舐めるかのように、彫青の部分を吸った。銀杏返しの髪のほつれ毛が、金五郎の顔に当る。
金五郎は擽ったく、変な気持になって来たが、お京を怒らせたくはなかったので、なすがままに、まかせていた。
「そっちの腕、見せて」
まっ白い左腕をさすりながら、火山のような大きな吐息をつき、
「この腕を、このままで置いとくなんて。ああ、金五郎さんがいやというなら、殺してでも、この腕に、降り龍を彫りたいわ」