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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
……左腕に、昇り龍、右腕に、降り龍――あたしが彫るのなら、両腕に、一対、ぜひ頼みたいって。……そうでしょう? 金五郎さんも男なら、いったん約束したことは、忘れはしないでしょ? あたしだって、すこしは知られた彫青師さ。うるさい関東の渡世人たちの間で、腕だけではなくて、気ッぷで、通って来た「蝶々牡丹のお京」よ。山ほど、銭金を積まれたって、いやだと思ったら、どんな貸元にだって、桃ひとつ、彫りゃしないわ。それが、金五郎さんの美しい肌に惚れこんで、……まちがわないでね。あなたにではなくて、あなたの身体に惚れたのさ。……銭金、損得抜きで、あたしが、こんなに打ちこむなんて、これまで、一度もなかったことよ。……金五郎さん、わかる?」
「うウン、わかったような、わからんような気持じゃが……」
「金五郎さん、お願い」と、また、お京は、蓮ッ葉な伝法調から、哀願する態度になって、
「ね、あたしに、右腕に、降り龍を彫らせて。もう、彫ってやるなんて、威張らないわ。あなたが、左腕だけで、博多から逃げてしまったときから、あたしは、病気になったのよ。狂人になるかも知れないわ。夢にまで見て、うなされるの。