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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
二階で、将棋をさしたり、花札を繰ったり、酒を飲んだりして、賑やかに騒いでいた子分連中も、いつか、静かになっている。
(もう、帰る時分やわ)
と、思っていると、表の格子戸が、開く音がした。
「ただ今」
「六ゾロの源」の声である。しかし、いつもとちがって、その声には元気がない。
マンは、弓張提灯を持って、玄関に出た。源十と時次郎。あまり酔ってもいず、妙に遠慮勝ちな様子で、もじもじしている。提灯の光を、まぶしそうにする。
「御苦労さん、無事にすんだのね。……さあ、おあがり。お酒の燗が、つけてありますよ」
「もう、沢山。向こうで、いやというほど、よばれて来たけ」
「そんなことでは、鱶の源さんが酔うとるとは、いえんじゃろ? 口なおしに、時やんと、一杯、やんなさいよ。肴に、イイダコが買うてあるわ」
「いんや、もう、寝る。きつい。くたぶれた」
「時やんも?」
「うん」
二人は、しめしあわせて来たかのように、こそこそと、しかし、大急ぎで、二階に上ってしまった。二人は、帰って来たとき、マンから、「オヤジと一緒じゃなかったの?」と訊ねられることが一番怖かったのであるが、当然あると予期したその質問がなかったので、やれやれ、と思ったのであった。