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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「大将、これをごらん下すって」
あたりをはばかって、豆八がとりだした一枚の紙片を、ランプの光で黙読した。
「金五郎さん、京は待っています。きっと、あなたが約束を果して下さることを信じます。京の命は今はこの一ことだけにつながっています。豆八さんに聞いて下されば、いつでも妾と連絡がつきます。京より」
「わからしゃったか?」
「うん」
「それでは……」
日ごろの剽軽に似あわず、深刻めいた顔付の豆八は、紙片をくるくると丸めると、ランプの火に投じた。秘密の手紙は燃えた。
副島甲板番が、ビフテキでビールが飲みたいというので、山手通にある「突貫亭」に行った。豆八も帯同した。
高塔山の麓、近くに白山神社のある高台に、鹿鳴館張り、青ペンキ塗りのハイカラな木造洋館がある。アーチ作りの門にかけられた看板が、ガス燈の光で「最新式高等西洋料理店・突貫亭」と読まれる。大広間には、ガスとともに、電燈も引かれている。まわりには、深い竹林や、鬱蒼とした大樹の森があって、夜になると、フクロウが鳴き、ときには狐や狸も出没する。
「いらっしゃアい。御新来、お三人さあん」
白エプロンの若い女給が、歌うような声で迎えて、金五郎たちを大広間の一隅にみちびいた。