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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
帳面方、兼会計は、大川時次郎であるが、留守なので、松本が代行している。
「頼む。今日だけ、三十銭」
酒好きの城三次がねだる。
「今日だけとはなんかい。毎日じゃないか。あんまり安酒は飲まんがええで」
「女に振られたけ、やけ酒じゃよ」
「飲みすぎるから、嫌われるとよ。……ほんとに、今日だけばい」
後に、松川源十の後をうけて、玉井組のボーシンになった松本重雄は、しっかりしているところがあった。
それぞれの文句をいいながら、子分連中はにぎやかに帰って行く。途中、露店や、おでん屋、居酒屋などに寄る者が多い。彼等の楽しみは、なにより、「角打ち」だ。桝の角から、キュウッと、冷酒を一息に飲むことである。
金五郎は、荷役の監督をする甲板番の労をねぎらおうと思った。
「副島さん、ちょっと、そこらへ行きましょう。簡単に、晩飯でも……」
「ああ、つきあおう」
二人が事務所を出ようとしたとき、老小使が金五郎を呼びに来た。だいぶ前から、客が来て、裏で待っているという。
金五郎は、「ちょっと」と、副島にいいおいて、裏に廻った。幇間の胡蝶屋豆八であった。
「豆八ッあんか。誰かと思うた。なんごとじゃね?」