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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(立派な泥棒じゃ)
この日ごろ、むしゃくしゃすることばかり続いて、憂鬱でならなかった金五郎の心に、パッと窓が開き、カッと明かるい光線がさしこんで来たような、愉快さであった。石川二右衛門――その名も洒落れている。為替を組むためには、名が必要なので、偽名を使ったのであろうが、五右衛門から三右衛門少いところが面白い。
すると、金五郎は、急に、忘れていた大事なことに気づいた。
(おれも、松山の親父に、三十円かえさなくちゃならん。明日、早速、送ろう)
そう思って、心が晴れ晴れした。
それから数日後、奇妙な事件が起った。
染奴が、或る夜、お座敷の帰りに、何者かのために、ザンギリ頭にされてしまったのである。丸坊主にされたわけではなかったけれども、鋭利な刃物で、黒髪を、ほとんど根元から、全面的に、切り取られた。染奴は、「飛鳥」から「山根」に仕換えして、相変らず、友田喜造と関係をつづけていたが、その夜は友田と逢ったのではなかった。三菱の宴会によばれたのである。
振袖の袂で、御高祖頭巾のように頭と顔をつつみ、けたたましく泣き喚きながら、「山根」に走り帰って来た染奴を、誰も、はじめは、発狂したのではないかと疑った。