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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「染ちゃん、どうしたのよ?」
女将をはじめ、おどろいて、居あわせた者が、寄ってたかってなだめすかすけれども、半狂乱の染奴は、畳のうえを、断末魔の芋虫のように、ころがりまわって、泣き叫ぶことを止めなかった。手がつけられない。
やがて、染奴の頭が、不様なザンギリになっていることを知って、あらためて、みんなは仰天した。
「誰が、こんなことをしたの? 染ちゃん、わけをお話しよ」
まっ青になった女将は、自分も染奴について泣きだしながら、しきりと、この恐しい出来事の顛末を聞きたがった。
「畜生、……鬼、……鬼、……」
染奴は、泣きじゃくりながら、囈言のように、そんなことを口走るばかりである。
「誰が畜生なの? 誰が鬼なの? さあ、話して……」
並みいる者は、こういう無残なことを、誰が、どういう理由でしたのか、知りたがった。
ところが、染奴は、どんなに問いつめられてもそれを語らない。その夜は、すぐに寝てしまい、朝まで、蒲団の中で泣いていたが、朝になってからでも、彼女が犯人を明らかにせぬ態度は変らなかった。頑強である。警察沙汰にまでなって、刑事が調べに来たけれども、犯人のことになると、染奴はただ――誰か、自分にもわからない。