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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
はじめから降伏しているといってもよい。
それを見ると、マンは、憎しみや怒りよりも、はげしい軽侮の念が湧いて来て、(こんな虫けら同然の女と、さしちがいなどしたくない)その気持になったのであった。
また、ギンがしゃべっているとき、金五郎が身うごきして呻いた。それは無意識に発した苦痛の声であったろうが、マンの耳には、
「女の癖に、出しゃばるな。引っこんどれ」
そういう、はっきりした言葉になって聞えた。
しかし、ほんとうに、マンを静まらせたのは、腹の中の子である。どうしたのか、胎児はしきりに暴れて、母親へなにかを告げようとしているかのようだった。興奮していたマンが、生まれ出る子に気づいた瞬間、完全に、危険な想念が消えていた。
その日から、なお、金五郎に昏睡の日がつづいた。
病室の表に、「面会謝絶」の札が掛けられた。
吉田磯吉や、花田準造、品川信健なども、見舞に来たが、浜野病院長は、患者に逢わせることを差し控えた。いずれも見舞の品を置いて帰った。
井上安五郎がやって来た。父に話し、金物商組合からの見舞品を、届ける役を買って出たのである。正義感に溢れるこの青年は、玉井金五郎の遭難を、街中の誰よりも歎き悲しんだ。