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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

雨に煙って、ぼかし絵のようだ。入港船か、出港船か、鈍く、汽笛が聞える。

藤本喜八郎は留守だったが、夫人で、すべての話は通じた。「藤本組の女傑」と呼ぶ者もあるほど、杉江夫人はしっかりしていた。

玄関を出るとき、どちらからも、最後の仕上げかのように、

「これで、安心をいたしました」

と、同じことをいって、微笑をかわした。

席に侍って、茶を入れたり、果物をむいたりしていた長女絹子は、それまで、多く口もきかず、表情も変えなかったが、そのとき、ぱっと、赤インキを浴びたように、顔を染めた。

大庭春吉と、マンとは、傘をさして、雨の道を歩いた。

「まずまず、よかったなあ」

「親方のおかげですわ」

「ええ夫婦が出来るぞ。玉井組と藤本組とが手を握りゃあ、鬼に金棒じゃ。祝言は、この春ちゅうわけにも行くまいけ、秋に、早目にやろ。夏は暑うて、かなわん」

「万事、親方にお委せいたします」

「金さんは、まだ、東京な?」

「一週間の予定ということでしたから、もう帰る時分でしょう」

「友田喜造も、一緒らしいのう。フフ……、長い敵じゃなあ。おれは、或るところで聞いたがな、友田の奴が――玉井をこんなに大きゅうならんうちに、かたづけとくんじゃった。