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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

……ちゅうて、大層、口惜しがっとったちゅうわい。それでも、あの男のことじゃけ、まだ、どんな卑怯な策略を、考えとらんとも限らん」

「親方」

マンは、急に、立ち止まった。

「なんじゃい?」

「この道です」

「この道が、どげしたな?」

「この道ですわ。うちの人と二人で、はじめて、永田の親方を頼って来たとき、この道を歩きました。彦島を追いだされて、金はないし、腹は減るし、……あたしも、うちの人も、まるきり、乞食の引っ越しみたよな恰好で、この道を、とぼとぼ、とぼとぼ……」

「古い話じゃのう。あれから、何年になるか知らん?」

「三十年近くになります」

「それくらいにはなろうなあ、おれが、こげな、よぼよぼ爺になっちょるけ」

「あたしも、こんなお婆さんになってしもうて……」

二人は顔見あわせて笑ったが、マンの眼には、うっすらと光るものがあった。

すっかり開けて、様子は変ってしまっているけれども、道筋と、それを挟む崖や、丘には、なお昔の面影が残っていた。踊るような恰好の一本松や、竹藪へ登る壊れた石段、「猿田彦大神」の祠などには、はっきりした記憶があった。前途暗澹とした気持で、金五郎と二人、力なく腰をおろした路傍の石も、そのままある。