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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンが乗っていると、
「この渡しは危いねえ。早う、橋をかけるか、海底トンネルにすべきじゃよ」
と、話している者があった。
「これは、玉井の姐さん、どちらまで?」
と、声をかけられた。
ふりかえると、城三次が立っている。「山九運輸」と襟に入った半纏を着、タンクと呼ばれている半ズボン、ゴム長靴、チョッキには時計の銀鎖、手に大きな風呂敷包みを持っている。三次の顔は、笑うと、左の唇がひきつるので、異様な形相になる。日本刀で斬られた痕である。後頭部にも、鳥打帽を取れば、大きな傷痕が見える筈だ。二十数年前の嵐の夜、金五郎が角助一味から、滅多斬りにされたとき、城三次も、傷を負ったのであった。後でわかったことであるが、三次は逃げて行く暴漢の一人に追いつき、組み打ちをして、怪我をしたのである。相手は逃げてしまった。
「オヤジのかわりに、おれが斬られりゃ、よかった」
あのとき、金五郎のむざんな姿を見て、三次は、そういって、男泣きに泣いたのである。
その城三次は、今は、「山九組」の小頭として、ちょっとした親分になっている。
「おれみたいな奴が、この若松を、大きな顔で通れるのも、みんな、玉井のオヤジのおかげじゃ」