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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
中盆と壺振りとを兼ねているのは、若い女である。銀杏返しの髪はすこしみだれ、ほつれ毛が、紅潮した長顔に、しどけなくたれかかっているが、金五郎の眼をひいたのは、腕まくりした女の右腕の、美しい彫青であった。大きな牡丹に、数羽の蝶の群れている図柄だが、その牡丹の花は、眼にしむほど、あざやかな朱で彩られている。
丁半両者の賭金がそろうと、
「勝負」
女は、丸味のある声でいって、ぱっと、白い手で、壺笊を伏せた。二つの骰子が、カラカラッと鳴って静まった。
金五郎は、その女の不思議な色気に、圧倒された。こういう女を見たことがない。思わず、見とれていると、壺笊に手をおいたまま、座中を見まわしていた女の視線が、自分に来た。
金五郎は、どぎまぎして、ふいに、赤らんだ。女の眼も、金五郎にとまって動かなくなった。
金五郎は、女から、二人置いた右手にいた。女の眼にも、おどおどした金五郎の田舎者らしい様子は、いかにも素人くさく映ったものであろう。やさしく、弟でもさとすような語調で、
「兄さんは、お張りになったの?」
と、いった。
「いいえ、……まだ、……」
思いがけず、声をかけられて、金五郎はびっくりして答えた。