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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
光丸は、二階の稽古場への階段を登った。
「これは、光丸はん、お師匠はんがお待ちかねですよ」
「飛鳥」の女将、君香が、にこにこ顔で迎えた。
「遅うなりまして……」
「光丸はん、うちの妻太郎はんと相棒で、「夕立」を踊んなはるんやてなあ。妻太郎はん、頼りないよってに、よろしゅう頼みまっさ」
「こちらこそ」
大勢の芸者たちが、藤間いせの指導の下に、稽古に熱中している。その雰囲気が、心の沈んでいた光丸を、すこしずつ、芸の世界に引き入れて行った。
浜ノ町は一番町から十一番町まである。すべて、大正初年までは、まだ、海であったところだ。市街地の後方に、衝立のような高塔山を控えている若松は、海の方へ領土拡張をする以外に、発展のしようがない。海面埋立のために、八幡製鉄所の鉱滓が運ばれ、急速に、街はぐんぐん海の方へ伸びて行ったのである。市中の雑然とした古い町並に比べて、浜ノ町は碁盤の目のように、井然としている。浜ノ町から先の広大な埋立地は、工場地帯になっていた。この浜四番町の一劃に、原田雲井の家があった。
「猫屋敷」を出た玉井勝則が、原田家に到着するまでには、普通以上に、時間がかかった。