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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

暗くてわからなかったけれども、そういう金五郎の顔には、悲しげな自嘲の表情が湧いたように思われた。

労苦が酬われて、次第に、社会的地位が出来、責任のある立場に就くようになったとき、金五郎をもっとも悲しませたものは、無学であった。少年のころ、ただ、腕白にまかせ、朝、学校に行くといって、弁当とカバンとを持って、家は出ても、山や川ばかりに行って遊んだ。持って生まれた取るに足らぬ能力を過信し、学問を軽蔑したのである。

「学問なんて、要らん。腕と力とさえありゃ、龍になって、昇天することが出来る。物識り馬鹿ちゅうものもある。そんなものにはなりとうない」

そして、裸一貫、営々と働いて、生活の基礎を築きあげたのである。けれども、そのときになって、金五郎は、思いがけぬ障壁に突きあたったのである。文字を知らず、知識に乏しく、恥をかくことばかりが続いたのであった。

――彫青と、無学。

二つの地獄の中で、呻吟した。

無学はマンも同様で、夫婦は、「どんなに貧乏しても、質八置いてでも、子供たちに、学校だけはさせてやろうな」と、口癖に話しあった。

市会議員に推挙されたときも、躊躇したのであるが、沖仲仕の代表、働く者の味方という意味で、断わりきれずに、立候補した。