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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
勝則も馴れているので、うまく櫓と船とを操作する。
「居らんな」
網を手操りあげながら、金五郎は呟く。あげてみると、小さなセイゴが一匹、入っていた。
なお、そこで、二網ほど入れたが、成績が芳しくないので、場所を変えることにした。
「切れ戸の方に行ってみよう」
金五郎は、そういって、舳に腰を下すと、煙草に火をつけた。
伝馬船は、櫓臍をかすかにキイキイ鳴らしながら、港外に出る。はるか前方に、燈台が明滅している。
勝則は、ゆるやかに、櫓を押しながら、
「お父さん」
「うん?」
「三菱の本店には寄られましたか」
「寄った」
「どうでした?」
「どうも、こうも、まるきり、話にならん。四度も行ったのに、一ぺんも逢うてくれん。玄関払いじゃ。なにしろ、ビルディングのような大きな店じゃもんでな。受付で刎ねられたら、法が附かん。おれたちの家くらいなら、どこからでも入りこんで、逢いたい者に面会出来るとじゃが、……」
「若松の支店の方からか、友田喜造かが、前もって連絡しとったんじゃありませんか」
「きっと、そうじゃ。東京で、友田が策動したものに違わん。それで、おれは、手紙を出そうかとも考えてみたんじゃが、……碌に、字は知らんし、文章も書けんもんじゃけ、……」