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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「なんのですか?」
「漁業のたい。わかっとるじゃないか」
「持ちません」
「ここは、禁漁区だ。鑑札がなけりゃ、違犯だ。署まで来い」
「すみません。禁漁区ちゅうことを知らんじゃったことですけ、こらえて下さい。これから、気をつけます」
「どうも、たちが悪い。漁業組合から、毎々、抗議が出とる。見せしめだ。来い。豚箱に入れてやる」
「ほんとに、知らんでしたこと、堪忍して下さい。謝ります」
「謝って、すむことか。なんでもええから、来いちゅうたら、来い」
金五郎は、むっとしたが、腹の虫をおさえて、
「わたしは、玉井金五郎です。いずれ、署までお詫びに出ますけ、豚箱だけはお助け下さい」
「ならん。金五郎か、銀五郎か知らんが、罪を犯して、逃れようなんて、虫のええ奴じゃ。……来んか」
「行かん」
はげしい語調だった。
「来ん? 横着な奴ちゃなあ。お上の命令に反く気か」
「反く。なんば、お上風吹かしたって、弱い者いじめの命令には、服されん。禁止区ちゅうことを知らんじゃったもんじゃけ、これだけ、謝っとるんじゃ。わたしが、あんたなら――これから、気をつけなさい。……というて、許すよ。それに、あんた、この若松で、玉井金五郎を知らんで、よう、巡査が勤まるなあ。