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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
台所に食卓が出されて、金五郎、マン、勝則、ババンの四人が坐った。
漁と巡査の話をしていると、時計が、チン、チン、と、二つ鳴った。
「ありゃ、もう、二時かや?」
ババンが、頓狂な声を立てた。
沢庵で、茶漬を食べ終った金五郎は、なにかを思いだしたように、立って、奥に入った。すぐに出て来ると、黒革の財布を持っている。それを、ぽんと、マンの前に投げた。
マンは、素知らぬ顔で、手に取り、
「あれ、この財布は、東京でチボに掏られたと、いいなさッとッたんじゃないですか」
「そうよ」
「それが、どうして?……」
「東京には、面白い掏摸が居るなあ。いっぺん盗んどいて、送りかえして来たよ。中を調べてごらん。なに一つ、のうなっとらん。銭も入れたままじゃ。おマン、昔、泥棒に入って来て、六円盗んで、……いや、お前がやったんじゃったなあ、……その六円を、一年目くらいに送りかえして来たのがあったじゃないか。その財布を盗んだ掏摸も、その同じ伝かも知れんよ」
財布の中からは、お京の手紙だけが抜いてあった。
「お父さん」
「あん?」
「そのチボは、男?……女?」
「そんなことが、わかるもんか」
「女じゃないか知らん?」