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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「何故や?」

「この財布が、白粉くそうなっとる」

金五郎は、ぎくッとした。

「へえエ? ちょっと、貸してみい」

受けとって、鼻にあててみた。格別に、白粉のにおいもしなかった。

「お前、かいでみんか」

勝則に渡したが、息子も、そんなにおいはしないようだ、といった。

最後に、ババンが、念入りに、鼻をスンスン鳴らして、財布を鼻にこすりつけていたが、大きな眼をクルッとむいて、

「ほんと、こりゃ。女子のにおいがするばい」

と、頓狂にいった。

マンは、また、財布を手にして、

「東京には、美人のチボがなんぼも居るという話は、前から聞いとった。自分はやらんで、チボをたくさん使うとる女親分も居るそうな。その一人にちがわん。でも、銭も抜かんで、かえして来たというのは、どういうわけじゃろか」

「それが、今いうた、六円泥棒の口じゃろうよ」

「そじゃろか? あたしは、ちがうと思うが……」

「そんなら、お前はどう思うんじゃ?」

「女のチボが、お父さんに惚れとるとじゃないか知らん?」

「馬鹿なこと、いうなよ」

「ないことじゃないわ。一ぺんは掏りとってみたものの、惚れとるもんじゃけ、かえしといて、いつか、折りをみて、渡りをつけに来る……」