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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「おマンさんが、また、奇妙なこといいだして、……」
ババンは、あきれた顔つきである。
「どんな女チボか知らんけんど」
と、マンは、夢みるような、妖しげな眸になって、ひとりごとのように、「いっぺん逢うてみたいなあ。逢うて、お礼がいいたいわ」
「泥棒に、なんのお礼をいうのかな?」
ババンは、いよいよ、あきれ顔だ。
「いろいろ」
ためいきのように、その言葉を落した。それから、煙管を取って、静かに、煙草を吸った。
表で、深夜の空気を破って、ブーン、というモーターの音が起った。つづいて、ペタペタというベルトの音。水の音。
「ありゃ、もう豆腐屋が起きて、仕事を始めちょる。さあ、寝よ、寝よ」
ババンのその言葉で、みんな、立った。
金五郎は、ババンと息子とが去った後で、漁に行って、勝則に、光丸とのことについて話をしたことを、マンに報告するつもりであったけれども、思いとどまった。マンの雲行が怪しい。
ただごとでない。不思議なことばかりいう。
(風呂に入っている間に、お京の手紙を見たのじゃあるまいか?)
その疑いの心が、湧いた。
それぞれ、寝室に引き取った。
金五郎は、日記をつけた。