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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
たいそう風が出て来た。小屋の中なら飛ぶ心配はない。さあ、入んなさい」
そういうと、役人はがたぴしと水車小屋の一枚戸をひきあけて、さっさと、先に入った。中から、マンをうながした。
マンも、しかたなく、おずおずと、小屋に入った。
暗い。鎧窓からさすかすかな光線で、三坪ほどの小屋の一隅に、土間に半分埋められた木臼が、三つならんでいるのがわかる。その中に、籾が入れられ、水車の廻転によって動く三つの杵が、それをおそい速度で、ドッス、ドッスと搗いている。たえ間なく、水の音がしている。小屋の中は、へんにかびくさい。
「煙草の葉を見せてごらん」
役人は、やさしい声でいった。態度がまるで変っている。帽子から、服、カバン、靴、顔にいたるまで黒い大男が、急に、猫なで声を出すので、マンは一層気味がわるくなった。無言で、笊をさしだした。
役人は、葉を一枚々々とりだして、手でもんだり、においをかいでみたりしながら、
「ずいぶん念入りに取ったものだなあ。お前は、わるい女のようではないが、どうして、政府の物を盗むようなことをするかね?」
「お父っあんが、煙草がしんから好きなもんですけえ……」