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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「ならん」

「ほんとに、盗んだとじゃないけえ」

「やかまし、行け」

男にはげしく肩をつかれて、マンはしかたなく先に立った。

黒服の男は専売局の役人である。煙草が専売制になると、厳重な規則ができた。この部落でも作っている家が多いが、段に何本と定められ、それは専売局の原簿に記帳される。種は専売局からもらい、葉の数は精密に調査されて、一枚も私することはできない。ただ、葉の上、中、下とそれぞれ味がちがい、役にたたぬ部分もあり、その落ちた何枚かを自家用に吸うことだけが、大目に見られていた。

山峡の底は日没が早く、二人が歩いてゆくうちに暗くなる。点々とある家に、ランプがともる。ツクツク法師と狐とが鳴いている。

淵になった谷川の横に、水車小屋があった。水車がゆるく廻っている。そこまで来ると、役人は立ちどまった。あたりを見まわしながら、

「ちょっとお待ち」

「なんぞ……?」

「話したいことがある。そこの水車小屋に入んなさい」

マンは、ちらと水車小屋に視線を投げたが、その切れのながい、大きな眼に、不安のいろが浮かんだ。

「話なら、ここで聞きます」

「ちょっと、お前の持っとる煙草葉の数を読みたいんだが、外では風で飛ぶ。