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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「そげえして下さりゃ、わたしも一所懸命やります」
大石鶴松は、やっと機嫌をなおした。
玉井家の隣りに、「三福湯」という風呂がある。これは十年ほど昔、大石、金五郎、それに、山本佐四郎という質屋を加えて、三人共同経営ではじめたので、「三福湯」という名をつけたのであるが、後、大石一人に譲った。大石は、六十歳近く、禿頭の大入道で、頑固一徹ではあるが、誠実な人柄なので、金五郎は、選挙のたび、事務長をやって貰っていた。
大石鶴松は、金五郎の前に、碁盤のあるのを見ると、
「一番、昨日の仇討を」
といって、もう、黒石の碁器を取った。
打ちはじめたところへ、マンが、茶を運んで入って来た。
「大石さん、毎日、お疲れさんで、……」
「ほんとに、くたびれます。選挙になると、いつも、二貫目ほど痩せますたい」
「お父さん」
と、マンは、金五郎の方を向いた。
「あン?」
「今夜の演説会は、公会堂ね?」
「そうじゃ」
「あたしも、行ってみようか知らん?」
「お前はおれの演説なんて、聞かんでもええ。三十年近くもいっしょに暮して、おれの話なんて、聞き飽いちょろうが、……」
「ほんとに。それは、もう、お父さんのいうことは、聞かんでもわかっとる。