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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
そやけど、ちょっと、外に、用があるけん」
「どげな?」
「お父さんの演説会のたんびに、欠かさんで、聞きに来る人があるそうね?」
「そりゃ、あるかも知れん」
「女の人で?」
「女?……女にゃあ、あるまい」
「逢うてみにゃわからんけど、たいそう小粋な別嬪さんとのこと。……その人、いつか、東京から、お父さんの財布を送りかえして来た、スリの女親分じゃないか知らん?……どうも、そんな気がするけんど、……」
大石が奇妙な顔をして、黒石をつまんだまま、
「へえエ? ありゃあ、女スリですか?」
「ありゃあ――なんて、大石さん、あんたも、その女、気づいとったとですか」
金五郎は、すこしどぎまぎして、訊ねた。
「気がついとりましたよ。初回のときは、別になんとも思わんじゃったけんど、あんまり、毎回じゃけ、鈍なわたしも、変に思うて見るようになりました。聴衆が大勢のときには、どこに紛れこんどってもわからんけんど、小さい会場で、小人数のときにゃ、あげな女は、じき目につく。それでも、なんか、玉井さんの眼には隠れるごとして、ショールで顔を埋めたり、戸口の廊下から、そっと覗いたりしとるとです。みんなと――あの女、なんじゃろうか?……ちゅうて、話しあうとったとですよ」