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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

三々五々、黒い影になって、仲仕たちは帰って行く。そのなかに、谷口林助と、マンも、まじっていた。肩をならべて歩きながら、兄妹は、口をきかなかった。足どりも、重い。

背後で、プッ、プウッ、と、ラッパの音が起った。提灯をつけた一台の人力車が、景気よく、横を走りすぎて行った。

「兄さん、親方さんじゃないけ?」

「そうよ、これから、オメカケさんのところに行きんさるとよ」

二人は、また、黙って歩いた。

運河に添って行くと、遠くに、長屋の灯が見えて来た。誰か、井戸端で、洗濯をしている。

「兄さん」

なにか考えながら、重い足どりで歩いていたマンが、顔をあげた。

「あン?」

「女って、損ねえ」

「なにが、損か」

「はじめから、男とは段ちがいに、定められてしもうとる。なんでも、下廻りばっかりで……」

「そら、しかたがないわ。昔から、そうなっとるんじゃから」

「なぜ、そうなっとるの? それが、あたし、おかしいのよ。いいえ、はがいいのよ。仲仕だって、そうでしょ。男が一人前とるのに、女は六分、そりゃあ、女は男ほどの仕事はできんかも知れんけど、男の中にだって、女の半分もできん人があるんじゃけ。