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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンは、返事が出ない。
「先月、玉井さんは上京されました。そのとき、偶然にも、般若の五郎さんが、東京駅で、玉井さんの財布を抜きました。それで、母と、久しぶりに、奇妙な連絡がついたという次第です。ほんとに、二十五年ぶり、あたしが、今年、二十三になります。母は、放埒むざんが祟って、いろいろと悪い病気を起し、寝こんで居ります。般若の五郎さんが、玉井さんを浅草におびきだし、与太者たちを集めて、身ぐるみ剥いだうえ、瓢箪池に投りこもうとしたのも、玉井さんが、母を苦しめた仇討をするつもりだったのでしょう。そのとき、先刻の唐獅子の十郎さんも、その中にいました。でも、母は玉井さんを恨んではいません。そして、今度、あたしたちを、若松に派遣したのです」
「すこし、わかりました」
と、マンは、ためいきをつくような語調でいった。
このとき、公会堂の演説会場で、にわかに、騒ぎが持ちあがった。すさまじい怒号の声とともに、聴衆が総立ちになるのが見えた。窓ガラスが、四五枚、割れて飛んだ。
数日が過ぎた。
若松の裏海岸、港とは反対の脇ノ浦の外れに、白鳥温泉がある。温泉といっても、ほんのちょっぴり硫黄分のある湧水を、沸かしているだけだ。