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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
どげしたじゃろか?」
「可哀そうに、原田雲井はまた落選たい。中村勉も、むつかしいわい」
街は、下馬評で湧き立つ。
開票場である公会堂は、坩堝のたぎる喧噪に包まれている。二階の講堂の中央で、一票ずつ開かれ、読みあげられているが、そのたびに、拍手や喊声がおこる。赤煉瓦づくりの公会堂のまわりには、数十の机がそれぞれの位置に据えられ、得票の知らせを待っている。二階の窓から、針金が斜に机のところまで掛けわたしてあって、票の出るたび、その候補者の開票立会人が、紙挟みに票数を書いた紙をくくりつけ、スルスルと、下におろす。
「そら、三票じゃ。飛べ」
その声で、勇ましい伝令が、選挙事務所まで、全速力で、自転車を走らせる。
「形勢は、どぎゃんですか」
政友会の機関紙「九州民報」の記者、高野貞三が、「玉井金五郎」と張りだしのしてある机のところへ、寄って来てのぞきこんだ。三十歳くらい、色の浅黒い、額の生え際が、洞海湾のように、頭部の中央に食いこんでいる、眼のぎょろぎょろした熊本弁まるだしの男である。
「どうも、変ですよ」
玉井組一号のボーシン、中山弥志馬が、仏頂面で答える。精悍な顔の労働者である。