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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「はあい」

すぐに返事が聞えた。まだ起きていたらしい。

「降りておいで。お客さんじゃけ」

「今、すぐ」

勝則は、玄関の騒ぎを聞いていて、客が誰であるかを知っているらしかった。浴衣がけで、階段を降りて来ると、心持ち青ざめた顔で、長髪をかきあげながら、辻木夫人の前に坐った。

「なにか、わたしに御用ですか」

「なにかではありませんよ。光丸を、一体、どこに隠したんですか」

「光丸?……光丸がいないんですか」

「まあ、白ばくれて、憎たらしいこと。二人いっしょかと思うとったけんど、光丸だけを隠したのね。白状しなさい」

「わたしは、なんにも知りませんですよ」

「お昼すぎ、お針の稽古に出たきり、今に帰らんというのは、あんたがそそのかして、どこかに隠したに定まっていますよ。あたしを騙そうたって、そうは、問屋がおろさんわ。ひどいことする人ね」

「ほんとに、知らないんです」

「辻木さん」とマンも、横から、「勝則は嘘をいう子じゃありません、光丸さんのいなくなったこととは、きっと関係ありますまい。どうか、他所を探して下さい」

「知らん筈はないがなあ……?」

狐のような眼で、勝則を睨んだけれども、いくら追求しても水掛け論と悟ったらしい。