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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
これまで、どんな事態に対処しても、熟慮して判断を下せば、強い意志力と、なにものにも屈しない実践力とで、すべてのことを解決して来た。それなのに、今度の問題は、金五郎を当惑させる。昏迷させる。
(おれは、馬鹿じゃ)
と、自信を喪失する気持にさえなるのだった。
金五郎は、日記の前のページを繰ってみた。
――三菱炭積機建設問題。
この文字は、一年間以上も、前の日記に、いたるところ、散見している。前年四月、上京したときには、三菱本店を訪問した。四度も行ったのに、四度とも玄関払いを食わされた。この問題は、年が改まってから、にわかに表面化した。
「洞海湾における数千の石炭仲仕は、石炭荷役をすることによって、僅かに、生きている。然るに、次々に、荷役は機械化されて、仲仕の仕事は減少した。仲仕の生活は、貧窮の底に叩き落された。このうえ、またも、三菱炭積機が建設されるということは、そのまま、仲仕の飢餓と死とを意味する」
建設中止歎願書に記された、この明瞭な道理によって、反対運動が起されたのである。それが、うまく運ばない。
――友田喜造。
立ちふさがる暗黒の壁の中に、金五郎は、この親分の鋼鉄の顔を見るのであった。