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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「お父さん」

そのマンの声も、もう、聞えないらしかった。

「秀子、すぐ、高山先生を呼んでおいで」

秀子は、医者のところへ駈けだして行った。

ババンに手つだって貰って、重い金五郎を、便所の中からかつぎだした。廊下をずるずる引きずって、座敷につれて来た。金五郎は、かすかに呻いて、眼を引っぱりあけようとした。しかし、上下の瞼がくっついたように、離れない。そのドロッとした不気味な眼を見て、マンは、ぞっとした。

「どげしたとかなあ」

ババンは、もう、おろおろしている。

「毒を盛られたとかも知れん?……畜生」

気の立っているマンは、涙も出ない。歯を噛み折るほどの口惜しさだった。

高山医師が、やって来た。ちょっと診察して、

「河豚中毒です」

と、いった。

「河豚?」

マンは、唖然とした。呆然となった。あッと口が開いたまま、ふさがらない。

医師は、応急手当をした。ゴム管を口中から、胃袋までさしこんで、吐瀉させた。薬をのませ、幾本も注射を打った。

「勝則は?」

と、ババンが、マンの顔を見た。

マンは、答える気力がない。

「勝則が居らんのに、もしものことがあったら、……?」

「もう、大丈夫です」