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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

と、医師が笑いながら、いった。「眠ってしまわないように、注意しといて下さい。時間が経過したら、もとに戻ります。すこし冷やした方がよいでしょうね。変ったことがあったら知らせて下さい」

そういって、帰った。

二時間ほど後、金五郎は意識を回復した。正常のいろがかえった眸で、夢から醒めたように、あたりをキョロキョロ見まわす。マンの顔を認めた。

「マン」

と、呟くように、呼んだ。

マンの右手が、いきなり、金五郎の左頬に飛んだ。そのはげしい音が、しゅうんと、家中に谺した。

「アイタッ、なにするか」

金五郎は、びっくりして、頬に、手を当てた。

「なにするかじゃないですよ。なんですか。河豚に酔うて死にかかったりなんかして。……今を、どんなときと思うとるの? どこで、誰と、河豚食うたのか知らんけんど、死んだらどうするとですか? この、大事な大事なときに」

マンの眼に、涙があふれて来た。

「今日の日のためばっかりに、どんなことでも、堪えて来たとじゃないですか。これまで、堪えきれんようなことも、随分あった。それを、歯を食いしばって堪えて来たのは、なんのためなの? 数千人の働く人たちの大きな問題のために、小さい争いを避けて来たのよ。