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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「争議には無関係でやりますよ。いや、きっと、それまでには、争議もかたづきましょう」
「今日が二十二日じゃし、後四五日しかありませんばい」
「なんとかなりますよ」
石段を降って来ると、崖の下に、囲いをして、二つの石碑が建っている。一つには、「大庭隠岐守種景之墓」――慶長年間、高塔山の頂上に城を築いていたという若松城主の碑。もう一つの丸い自然石の表には、「三界之万霊」とあり、両側に、「飢死」「横死」と彫ってある。年代が書いてないけれども、随分、古いものらしい。
(ゴンゾは飢死で、おれは横死か?)
そんな皮肉を、胸のなかで呟いて、通りすぎた。
ゆっくりした歩度で、安政町にある友田喜造邸の前に来た。
卵色の高い塀で囲まれた、宏壮な屋敷である。下部は大きな岩でかためられて、大江山の鬼の岩屋を思い出させる。広い庭があって、森林のように、鬱蒼と、樹木が繁茂している。
(猛獣やら、毒蛇やらが、居るかも知れん)
金五郎の頭に、自然のように、そんな考えが浮かんだ。
(じゃが、猛獣より、毒蛇より、人間の方が、よっぽど恐しいわい)
ペンキ塗りの「友田組」という大きな看板を、睨むように見た。