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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
金五郎は、門前に、ちょっとたたずんで、ここへ来る途中、前を通った岡部亭蔵宅を思いだした。共働組や、請負師組合では、岡部の方が責任者で、地位も上なのだが、実権は友田が握って、横暴のかぎりをつくしている。甘い汁を吸うことも、これと比例しているとみえて、家も、友田邸の方が、親分の岡部邸より、十倍も大きい。
(岡部氏と交渉出来るのなら、争議も、こんなには、こじれはせんじゃろうが、……)
今さら考えても始まらぬことを、考えずには居られなかった。
「よし」
と、金五郎は、うなずいた。行動のはずみをつけるための無意味な呟きだった。
チョッキの下の腹巻に入れているピストルを、上から、たしかめるように、おさえてみてから、鉄格子の門をくぐった。植込みの間の長い石甃を進んだ。犬が吠えだした。みごとなシェファードが、建仁寺垣の傍から、金五郎に向かって、歯と舌とをむきだしている。
玄関に、立った。
「おごめん」
すぐに、取次ぎが出て来た。四十歳くらいで、色の青白い、角刈りにした男、着物のうえから、「友田」と襟に入った半纏を引っかけている。
金五郎の顔はよく知っていて、
「こりゃあ、玉井の親分さん、早いお越しで……」