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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「お邪魔いたしました」

金五郎は、悠々と、子分連中の間を抜けて、玄関に行った。靴をはき、また、長い石甃を歩いて、鉄門の外に出ると、フウウッ、と、全身が風船玉のようにふくらんで縮んだような、巨大なためいきが、ひとりでに出た。

「なんちゅうことか」

泣きそうな顔で呟いて、海岸の方に歩きだした。足が重い。いつも見なれた街が、まるで、知らぬ他国のような白々しさで、眼に映る。街の人々の顔も、異国人めいて感じられた。多くの視線が、すべて、嘲笑の矢になって、全身を刺すようだ。

金五郎は、眼を伏せ、うなだれて、歩いた。

(おれの一生は、終った)

下唇が、血の出るほど、強く、噛まれていた。

「争議本部」では、評議員たちが待っていた。十時をすこし過ぎている。

「勝則」

と、息子を、廊下に呼びだした。

「なんですか」

「今朝、あずけた書類をくれ。今日の会に出られなんだら、お前に開けて貰おうと思おうとったけんど、出られたけ、もう、ええ」

「そうですか」。

勝則は、ちょっと、父の顔を見たが、風呂敷包みを取って来ると黙って渡した。

「勝則」

「はあ?」

「友田喜造に、逢うて来たよ」

息子は、無言で、父の顔を見た。