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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
あたかも、いつか、河豚に酔って帰ったときのように、半ば正気をうしなっているらしい。浄瑠璃の肩衣は脱いでいるが、袴はつけている。跣足だ、刀を抜きつれた白鉢巻の男たちが、四五人、金五郎を遠まきに囲んで、金五郎の動く方向に、動いている。
マンは、その中に、馬を突っこんだ。
「お父さん」
馬上から叫ぶと、身体を屈して、金五郎の腕をつかんだ。どこから、そういう力が出たのか。金五郎の身体は、軽々と、馬上に引きあげられた。これまで、マンの生涯に鍛えられ、蓄えられて来たすべての力は、この一瞬のために、あったのかも知れない。
夫婦を乗せた馬車馬は、尻株に刀を投げつけられて、いななきながら、雪のなかをひた走りに走った。
夫をしっかりと抱いているマンの眼に、銃剣を持った兵隊たちの姿が映った。ラッパの音が聞えた。
家に帰った。
ババンをはじめ、「ノロ甚」や、近所の人たちが集まって来た。仕事を休んでいた子分の数人も飛んで来た。みんなの顔は憂色につつまれている。
金五郎はかつぎこまれて、蒲団に横たえられても、人事不省のままだった。子分が高山博士を呼びに走ったけれども、なかなかやって来ない。