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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
青ざめた顔は紙のようである。額と首筋にうすく血がにじんでいる。
マンは鉄瓶の水を口に含んだ。プッ、プウッ、と二度に、夫の顔にふきかけた。それでも、金五郎は蘇生しない。
マンは、なにかうなずいた。夫の股間に右手をさし入れた。それに思いと力とをこめた。
「ウ、……ウウン、……」
金五郎は呻いた。やがて、眼を開いた。
死と夢
梅の木はないのに、庭にウグイスが来て鳴いている。ボケの花でもまちがえたのであろうか。澄んだ声が、冷たい朝の空気をふるわせる。これも、なにかの勘ちがいをしたのか、まだ、冬眠から醒めるはずのない青蛙が一匹、鯉、鮒、金魚のたくさん泳いでいる瓢箪池の岸で、手をついたまま、置物のように動かない。
「梅にウグイス――というが、梅もないのに、間抜けなウグイスじゃなあ」
縁側で、投網の修繕をしながら、金五郎が笑った。
「ヤブウグイスよ。あたしとひとつこと、贅沢いわんで、どこでも歌うとたい」
キザミ煙草をおいしそうに吸っていたマンは、そういって笑ったが、ふっと、いたずらっぽい真顔になって、
「お父さん、梅がなけりゃ歌わん、ちゅう、頑固な女子のウグイスが居ったけんど、憶えとる?」