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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「オヤジは?」

「東京に行ったわ」

「ふウン」時次郎は、ちょっと、張りあい抜けした表情を浮かべたが、「実は、長崎の高島炭坑で沈没炭引きあげの相談をうけてなあ、わし一人の手に負えんもんじゃけ、オヤジの力を借りようと思うて来た。早いがええけ、こげな天気のなかを飛んで来たんじゃが、……そうな、上京したな」

マンは、酒の燗をつけて出した。さしつ、さされつしながら、

「時やん、田舎で、あんたから、馬乗りを教えて貰うとったおかげで、うちの人を助けることが出来たわ」

しんみりした語調で、マンは、いった。

「一緒に、帝釈峡の方までも、遠乗りしたことがあったなあ」

時次郎も、遠い日を夢みる瞳になる。マンにはげしい思いをかけていた時次郎も、今は、四人の子の親である。

マンが、泊って行きなさい、とすすめたけれども、

「また――間男、見つけた。打ち斬ってくれる。……なんて、いうて、オヤジが飛びだすと困るけ、帰ろう」

そんなことをいって、笑いながら、吹き降りの中を、帰って行った。

また、四五日が経った。

なにか、政治上の大切な用件がある模様で、井上安五郎や、原田雲井が、数回、おとずれて来た。