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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

急ぐらしく、金五郎がいないと困るといい、「至急、帰若するよう、電報でも打って貰いたい」といわれた。

しかし、マンは、電報を打たなかった。

金五郎が帰ったのは、上京してから、半月ほど後である。一人ではなく、般若の五郎をつれていた。

「お京さんは?」

「死んだ」

金五郎は、ぽつんと、投げすてるように、一言いったきりである。仏頂面をしていて、東京でのことを、なに一つ、語ろうとしない。

「五郎さんを、家に引き取ることにしたけ、頼むばい」

その言葉の意味も、マンにはよくわからない。

(なにか、あたしに、話されんことがあったとじゃないか知らん?)

疑惑が、かるい嫉妬をともなって、マンの心に湧いた。マンも女である。考えはじめると、夫の不可解な沈黙が、矢も楯もたまらぬ焦躁となって、心をみだした。にわかに、君香のいった言葉がよみがえって、

(もしや?)

と、思う。

「ようし」

と、マンは、呟いた。

深夜になって、マンは不思議な活動を開始した。

金五郎の寝息をうかがうと、廊下の壁にとりつけてある電燈の元のスイッチを切った。一時に、家中の明かりが消えて、暗黒となった。

手さぐりで、便所に行った。