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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

喧嘩の方は、どっちが勝ったかわからないけれども、大村組から仕掛けて来たのであるから、浜尾組にお咎めはない。浮沈の瀬戸際を乗りきることのできた浜尾は、大よろこびだ。今日は、子分の全員を引き具して、遠足に出かけた。今ごろは、壇ノ浦を望む和布利神社の境内で、祝いの酒盛が、たけなわの時分である。

チヱは、盥を前にし、大儀そうな手つきで、洗濯に余念がない。背中に、二つになる男の赤ん坊を帯でくくりつけているが、腹の方は、もう臨月で、動くたびに息苦しいらしい。ときどき、肩で大きな吐息をつく。

五ツになる上の女の子は、マンが、バケツの中で、猫を洗っているのを、心配そうな顔つきで、のぞきこんでいる。泥溝に落ちこんだ猫は、マンの自由にされながら、おとなしい。しかし、こまかい毛にしみこんだ青黒い泥土は、石鹸でこするのに、なかなか落ちない。ひどく臭い。

「叔母ちゃん、猫、死なん?」

女の子は、涙ぐんでいる。

「安心なさい。死にはせんよ。でも、もう、ちょっと、気づかなんだら、仏さまになっとったかも知れんねえ」

「よかったねえ」

「ほんとに、よかったよ」

チヱは、笑いながら、

「おマンさんたら、しんから、猫好きね」